No.1 体重計実験

「大人の科学 ~スキー編~」で御馴染み?!のhiro99999が担当するコラムの第1回目、「体重計実験」です\(◎o◎)/

1.はじめに

 

 まだSANJも「大人の科学 ~スキー編~」無かった遠い昔,Yahoo BBSで紹介した話を,ここに紹介します。

 

 ----【命題】-------------------------------------------------
 水平な床の上で,左右均等に直立した(静止)状態から,
 左に傾き始めるときには,必ず,最初は右足の荷重が左足の荷重
 より大きくなる。
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 この力学の命題を「証明」あるいは「各自確認」してください,という単なる「簡単な力学の練習問題」です。簡単な力学の練習問題ですから,実際のスキー操作と似ているところもありますが違う所もあります。しかしこの「簡単な問題」ですら共通認識を作れなければ,実際のスキー操作のような「複雑な運動」で話が噛み合うはずありません。ですからこの簡単な力学の問題は「実際のスキー操作の荷重について,噛み合う話ができるか否かをチェックするベンチマーク」として使える話題と思います。


 ところで「スキー用語の荷重」は,力学の「荷重」とは異なる意味で使われることもあります。ここでは力学用語として「荷重」という用語を使っています。力学では普通「物体に外部から掛かる力」のことを「荷重」と言います。また「力」は中学理科で教わるように「ばねばかり(体重計)で計れるもの」ですから,床と足の間に左右2個の「体重計」をはさめば,左右の足による「荷重」を直接計れます。

 

 なお力学の「荷重」は足裏感覚でも分かる「はず」でもありますから,「自分の足裏感覚」と「体重計の読み(現実)」が一致しているかズレているかを知る機会になりますので,それなりに面白いかもしれません(つまらない,当たり前のことかもしれません)。
以下「力学法則に基づいた証明」を紹介しますが,難しい数式が嫌いな方は証明を理解できなくても,「2つの体重計の上に乗って,体重計の値の変化を読む」だけで「確認」できる,簡単な実験の話題のはずと思います。

 

 

( ^-^)_旦~

 

2.力学法則に基づいた証明

 

 証明には,高校物理・高校数学の知識を使います。部分的に高校物理を超える内容もありますが(慣性モーメントなど),高校物理・高校数学の知識で理解できるよう,説明を加えておきます。


 では,水平な床の上で,左右均等に直立した(静止)状態から,左に傾き始めるときの,左右の荷重の大小を求めて行きましょう。まず問題の条件を整理します。左右均等ですから,特集の上の図でいえば,wl=wrのときです。
 

 質量をm,重心を中心とした慣性モーメントをIとおきます。慣性モーメントは図には記載されていませんし高校物理の範囲をやや超えますが,質量が重心にのみ集中していれば0になる量で,質量が重心の周りに分散していれば必ず正になる量です。

 荷重点L,Rで床が足を押す力の縦成分をそれぞれ Fl[縦] ,Fr[縦],横成分を右を正としてそれぞれ Fl[横],Fr[横]とおきます。図の記号とは Fl[縦]=Rl ,Fr[縦]=Rr の関係です。

 重心Gと荷重点Rの距離を L[GR],重心Gと荷重点Lの距離をL[GL]とおきます。なお傾き始める瞬間は L[GL]=L[GR]です。また,足が床を押す力と,床が足を押す力は,作用反作用の関係にありますから,向きは逆で大きさは等しくなります。

 

 「傾き始める瞬間」に,この物体に働く合力Fgは,

 

   横成分: Fg[横] = Fl[横] + Fr[横]       ------ (1)
   縦成分: Fg[縦] = Fl[縦] + Fr[縦] - mg  ----- (2)

 

であり,この物体に働く,重心を中心とした力のモーメントNは,∠GRLの大きさをθとおくと(0 <θ< 90°:傾き始める瞬間なので∠GLRの大きさもθ),左回転を正として,

 

   N = L[GL]( Fl[横] cosθ -Fl[縦] sinθ )
      +L[GR]( Fr[横] cosθ +Fr[縦] sinθ ) ------(3)

 

となります。

 静止した状態から「左へ傾き始める」とは,「重心の加速度は左向き」かつ「回転の角加速度が左向き」を意味し,力と加速度は比例するとともに角加速度と力のモーメントも比例しますから,左へ傾き始めるとは(質量mや慣性モーメントIが0でなければ),

 

   Fg[横] < 0 ------(4)
   N    > 0  ------(5)

 

を意味します。

 

 以上で「問題の条件」が、式(1)-(5)に整理されました。次に計算に移ります。
 

 題意よりL[GL]=L[GR]なので(3)より,

 

   N = L[GR] { (Fl[横]+Fr[横] ) cosθ + ( -Fl[縦]+Fr [縦] ) sinθ }

 

となります。(5)より N>0であり,また,題意よりL[GR]>0だから,

 

    ( Fl[横]+Fr [横] ) cosθ + ( -Fl[縦]+Fr[縦] ) sinθ > 0

 

よって,

 

   Fl[縦]-Fr[縦] < ( Fl[横]+Fr[横] )cosθ / sinθ

 

となります。

 題意より 0<θ<90° つまり cosθ>0,sinθ>0 であり、また(1)(4)より Fl[横]+Fr[横]<0なので,右辺<0となるから,

 

   Fl[縦]-Fr [縦] < 0

 

つまり図の記号でいえば,

 

   Rl < Rr

 

と,なります(証明終わり)。

 

 

( ^-^)_旦~

 

3.おまけ -- [特集]の解答 --

 

 ついでに、http://sanjapan.jimdo.com/特集/ の問題の解答をまとめておきます。「体重計の実験」の話題では「左右の荷重差」を問題にしていましたが、ここでは左足の荷重を0にした瞬間の「脱力の前後の右足の荷重の増減」に注目しています。

 

  問題の条件は、wr一定、h一定、接点は剛結なので、重心Gと荷重点が真っ直ぐな棒で繋がれている場合と力学的には同じ問題になります。左足を脱力した瞬間から、重心GはRを中心とした円運動を開始して、倒れます。参考図-3

 

  まず、左足脱力直後の右足の荷重Rrを求めます。∠GRLをθと置くと、

 

  Rr= mg・sinθ・sin θ

    = mg(1-cos 2θ)/

 

となります。左足脱力前の(最初の)荷重がmg/2ですから、右足の荷重変化ΔRは(増加を正)

 
  ΔR=Rr-mg/

     = mg(1-cos 2θ)/2-mg/
     = - ( mg・cos 2θ )/

 

となります。この式より、

 

 ・  θ>45°(wr<h)の場合には、右足の荷重は増加(ΔR>0)

 ・  θ=45°(wr=h)の場合には、右足の荷重は不変(ΔR=0)

 ・  θ<45°(wr>h)の場合には、右足の荷重は減少(ΔR<0)

 

となります。

 

 つまり、問題の条件の場合には、相当なワイドスタンスの場合でなければ、左足の荷重を0にした瞬間、右足の荷重は増加します。

  なお、証明は省略しますが、左足の荷重が急に0になる場合だけでなく、左足の荷重を減らして(0とは限らない)傾き始める瞬間も、同様に、相当なワイドスタンスの場合でなければ、右足の荷重は増加します。

 

 

( ^-^)_~

 

4.おまけ2 --[特集]自由落下で傾く--

 

 先ほどは、荷重点Rがヒンジになっており「滑らない場合」を考察しました。次に、Rが「自由に滑る場合」を考えてみます。

     http://sanjapan.jimdo.com/特集/参考図/

 図のように、支えは「横につるっと滑って」この物体を支えることができません。このとき物体は、参考図2のように回転しますが、質量が重心に集中している場合には(重心を中心とした慣性モーメントが0ならば)、棒は、重心に全く力を掛けることができず、重力加速度で「自由落下」します。棒の下端を「水平方向に自由にするだけで」鉛直方向の力も自動的に0になるのは、面白いことかもしれません。自由落下ですから、重心は鉛直方向にのみ移動し、水平方向には移動し始めません。これは「自由落下で傾く」場合、と言えます。

 さて、この「つるっと滑る」場合と、3.の「ヒンジ」の場合は、何が同じで何が違うのでしょうか。条件は、

 

  共通点:双方とも、重力が働いており、棒の下端は鉛直方向に束縛されている

  相違点:棒の下端が「ヒンジ」と「つるっと滑る」場合

 

です。起きる現象は、

 

  共通点:双方とも、棒の傾きは増加する(鉛直を傾きが小さいとする)

  相違点:重心が「円運動しながら左へ移動する」か「鉛直に自由落下」するか

 

です。

 このように違う現象が起きる理由は、ヒンジの場合には、足が床から横向きの力を受けるからです。3.のように床から横向きの力を受ければ、重心は円運動をしますから「自由落下しません」し、鉛直方向の加速度も自由落下の場合より小さくなります。ヒンジの場合には「自由落下で傾こうとするのを抑えている」と言い換えても良いと思います。

 いずれにせよ、「自由落下で傾く」場合と「滑らないで傾く」場合には、このような違いがあります。

 

 

( ^-^)_~